「使えるAI」を目指したフィードバックプロセスにより、最大10倍の効率化を実現するツールの開発
サイバーステップ株式会社様
課題/お問い合わせ背景
サイバーステップでは、YouTuberなどでゲーム実況を行う方々とのコラボレーション用のキャラクターアバターや、ベッドなどのワールド内に設置するオブジェクトなどボクセルを用いたリソースを作成することに工数が大きくかかっていた
また、「テラビット」はユーザー自身が作って遊べることが魅力のゲームであるため、自社内での安定稼働ができるようになったのちに改良を重ねて、ゆくゆくはユーザー向けに一般公開したいというニーズがあった
複数の会社様とやり取りをする中で、プロダクトの開発やプロダクトのグロースに強みを持つ弊社と本プロジェクトを本格的に実施することになった
ポイント
クイックな要件定義と実現可能性評価 プロジェクトの実現可能性を検証するため、1ヶ月という短期間でクイックに要件定義と実現可能性の評価を実施。プロセスを細分化し、スコープを絞った検証をすることで短期間での検証を可能に。 | 複数のアプローチを同時検証 AIの実現アプローチは1つではなく、複数考えられます。複数同時に検証することで、プロジェクト全体の実現可能性を高めつつ、スピード感持った開発を推進 | 技術内容の共有・フィードバックの徹底と内製化 週次のミーティングにて、技術内容の詳細を共有。途中繰り返し細かくフィードバックをいただくことで、「現場で使える」ツールへと昇華。バックグラウンドを共有することで、内製での作成もシームレスに実現。 |
事例の詳細
テラビットとは
『テラビット』は基本プレイ無料の”みんなで作るサンドボックスゲーム”です。
本作は、様々なブロックを組み上げてオリジナルのボクセルのワールドを制作できるだけでなく、ワールドにゲーム要素を加えることで”誰でもゲームクリエイターになれる”という体験を楽しむことができます。
さらにマルチプレイやクロスプレイにも対応しているため、友達とオンラインでゲームワールドを協力して制作出来るだけでなく、制作済みのワールドを公開することで他のプレイヤーもその世界で遊ぶことができます。
本プロジェクトでは、ゲーム内において利用可能なボクセルのモデルを弊社が提供するAI技術を用いて、自動で生成いたしました。
プロジェクトの全体像
今回のプロジェクトは、要件定義・実現可能性の検証から着手し、モデルの開発、ツール開発・内製化と、3つのフェーズに分けて進行いたしました。
プロジェクト開始当初から明確なコンセプトはあったものの、「本当にできるのか?」という実現可能性への懸念があったため、本格的に開発に着手する前の最初の1ヶ月という短期間で技術的な検証を実施。実現可能性の担保ができることを確認した上でモデル開発に着手し、展開後に向けた運用サポートなどを行いました。
Hakky社の体制
各フェーズのタスクに応じて必要な専門人材をアサインし、週次定例を実施しながらプロジェクトを進行しました。
PM:1名
機械学習エンジニア:1名
データサイエンティスト:2名
プロジェクトの成果
本プロジェクトの成果の一つとして、2024年8月22日(木)にテラビットのゲーム上で「夕闇バトルアリーナ」が公開されました(プレスリリース)。新しく公開されたワールドでは、今回のプロジェクトで作成したAIツールを用いて、サイバーステップ様にてキャラクターやオブジェクトを作成、ゲーム上に搭載いただきました。
AIツールを用いての作成ステップの概要
まずは「カウボーイのゾンビ」などのキーワードを元に画像を生成し、3Dモデルを作成、ボクセルモデル変換という3ステップでキャラクター・オブジェクトの作成を行いました。
このようなゲーム制作の工程において、主役級のキャラクターや場面・オブジェクトの作り込みはもちろんですが、圧倒的にそうでない大多数のパーツによって世界観は構築されているため、隅まで高品質を保つことができるとゲームとしての完成度も飛躍的に高まります。
今回開発したツールを用いることで、従来よりも作業効率が5倍〜10倍程度上がり、少ない工数で多数のボクセルモデルが生成できるようになりました。これによって、遭遇する敵キャラクターの種類を増やすことができたり、それぞれのキャラクターデザインに時間をかけられるようになったり、品質向上に貢献することができました。
ステップ①:クイックな要件定義と実現可能性評価
まずはプロジェクトが実現可能なのか、1ヶ月という短期間で実現可能性の評価を行いました。
オブジェクトやアバターの細かい要件(使用可能なカラー等)の擦り合わせなど、最初に実現可能性の検証を行うことで、プロジェクトの初期フェーズから全体感を可視化し議論をすることができました。
また、短期間での技術検証が必要だったため、生成までに必要なプロセスを初期のタイミングで分解し、各プロセスを並行して進めることで一次検証を実行しました。これにより、「実現可能性が高いこのロジックがうまくいった前提にはなりますが、このようになります」と、実現可能性が低い部分に焦点を当てて、可能性を検証することで、実現可能性がどの程度あるかや、ロジックのイメージをつけてもらうことができるようになりました。
以下は、初期に検証していた2つのアプローチの結果です。
完全な自動化はできていないものの、各生成プロセスの要素となる技術検証を、スコープを絞って行うことでクイックに実現可能性を検証することができました。
ステップ②:複数のアプローチを同時検証
Phase1で実現可能性があると判断後、Phase2では複数のアプローチから最適な生成プロセスを探求しました。
生成のプロセス手法を複数用意し、かつそれぞれのステップにおける実行方法も複数の候補を並べ、データサイエンティストと相談の上確実性が高いものから順番に同時並行で検証を行うことで、短期間で実現に向けた検証をより多く行うことができました。
ステップ③:技術内容の共有・フィードバックの徹底と内製化
本プロジェクトでは、技術的なプロセスも含め、進捗を詳細に週次定例にて共有させていただきました。
技術的に難しい部分(検証コストなども含む)や完璧ではない部分など、進め方に迷う箇所について技術的なロジック特性も含め定例で会話することで、適宜方向性のすり合わせを行いながら開発を進めることができました。
AIは特性上、精度100%になることはありません。
その前提に立った上で最大限の効果を出せるよう、「ここは作業負担が比較的少ないからAIではなくても良い」「ここはAIではなくルールベースでもワークしそう」といった判断をサイバーステップ様と議論しながら進めることができました。
また、検証過程の早い段階から実際の生成物をデザイナーの方に見ていただく工程を設け、フィードバックをいただきました。
リリース後の初期フェーズにおいて実際に使用するデザイナー様からフィードバックをもらうことにより、作業負担が大きくかつ技術的に実現可能性が高いところから優先的に潰していくことで「使われるAI」を実現することができました。
また、内部の技術検証内容を詳細に共有していたことから、内製化ツールの開発を行った際にも「ここを可変にしたい」といった使用感等の細部について担当者様からフィードバックをいただくことでスムーズに実運用に載せることができました。
このように、細かいフィードバックをふまえた改善サイクルの実行、およびプロジェクトの解像度を両者で共有し合うことで、リリース後も使い勝手の良いツールを開発できたと、考えております。
今後の展望
生成自体は改善の余地は大きくあり、所々人の力を借りる形での対応をしているのが実情です。
よって、今後は社内でまずは運用を開始し、精度面の課題としてどのようなものがあるかを整理した上で、更なる改善を行い、一般のユーザー様でも自由に生成ができるような世界を目指します。
編集後記
今回のプロジェクトでは、「テラビット」におけるゲーム制作の過程にAIを導入し、いち早く様々なバリエーションのワールドを展開することができるようなツールを開発いたしました。
今回の成果としては、作業効率化の側面もありますが、「自分が思い描いた世界」を実現するハードルを下げることは、より多くのユーザーに使っていただける機会を増やすだけでなく、今まで実現するのにかかっていたコストを抑え、様々な人にAIの力も借りながらクリエイティブな世界を実現することができることを意味します。
今回のような画像データを手軽に3Dデータに変換したいというご要望はゲームにおける活用のみならず、3Dシミュレーション等を必要とする建築業や製造業などでもよくあるケースです。これまで培った技術を元にあらゆる人がデータ・AIの技術の恩恵が得られ、事業も加速していくような世界を実現していきたいと思っております。
サイバーステップ株式会社様ご紹介
サイバーステップは2000年に創業して以来、「世界中を楽しくするエンターテイメントを世に送り出す」という信念を持って事業を展開しております。
海外展開の成功体験からグローバル展開を常に視野に入れ、日本の会社として「日本的なおもしろさ」を大事にしながら多くのタイトルを世界中に展開しています。
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