CASE STUDY

行政ガイドライン準拠の24時間AI傾聴相談窓口を開発

「最初の一歩」を受け止め、高リスクの相談は人の支援へつなぐ安全設計

株式会社法研 ヘルスケア事業部

課題/お問い合わせ背景

株式会社法研様は、愛媛県が公募型プロポーザルとして募集した「令和8年度 AIを活用した働く世代の心の健康相談業務」への応募にあたり、いくつかの壁に直面していました。

  • いつ誰がアクセスしても24時間安全に問題なく稼働ができるAIシステムの提供。

  • これまでの対面や電話による相談では身元が伝わる不安から具体的な相談に至らないケースも多く、匿名性を担保できる相談窓口としてのAI活用が求められていた。

  • 国の「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」への準拠、個人情報保護、高リスク相談の県への共有など、民間サービス以上に課された厳格な要件。

これらの課題に対し、自治体との協働実績も持つ法研様の健康・医療分野のサービス運営知見と、豊富なプロダクト開発実績を持つHakkyのAI開発力を組み合わせる体制で提案を行い、この公募を勝ち取りました。

ポイント

対人援助の理論を構造化した「傾聴対話」設計

高リスク発話の二重検知と、人の支援へつなぐエスカレーション

行政の生成AIガイドラインに準拠した、匿名・24時間稼働のクラウド基盤

応答を自由生成にせず、受容→反映→整理→問いかけの4ステップ構造にすることで対話のなかで気持ちを整理しやすくなる導線を確保。

自殺企図・希死念慮等のシグナルを二重の仕組みで検知し、専門窓口の案内と県の相談機関への情報連携につなぐ構成とすることで重大な事案を人手の支援へ引き渡す安全網を確保。

相談内容のAI非学習、通信・保存の暗号化、匿名利用を基本方針として設計。行政事業に求められる準拠性と、アクセス増にも耐え得る24時間の可用性を同時に担保。

事例の詳細

プロジェクトの進め方とスケジュール

2026年6月の要件定義・基本設計を起点に、システム開発・テストを経て、2026年9月18日0時に相談窓口を開設いたしました。(開設期間は10月18日までの約1ヶ月間を予定)

プロジェクトの進め方とスケジュール

Hakkyは、要件定義・基本設計からシステム開発、傾聴プロンプトとリスク検知の設計・チューニング、クラウド基盤の構築・保守運用までの技術領域を担当いたしました。

民間サービスや社内システムの開発であれば状況に応じてリリース日を調整するケースもありますが、行政事業である本件では「9月18日0時の開設」という期日の厳守が絶対条件であり、遅延は一切許容されません。

そこでHakkyは、提案段階から画面モックアップで実装イメージを具体化し、受託後はAI駆動開発によって動くプロトタイプを早期に構築。画面遷移や相談カテゴリ、リスク検知の安全網といった仕様を、法研様が実際に触れながら確認できる環境を整え、開発を進めました。

正解のない「AIの振る舞い」を早い段階からすり合わせられたことが、短期間での確実なデリバリー、そして期日通りの開設につながりました。

開発プロダクト:「えひめ こころのAI相談窓口」

「えひめ こころのAI相談窓口」は、働く世代が自身のスマートフォンやパソコンのブラウザから、匿名・無料・24時間、AIにチャットで悩みを相談できるWeb相談窓口です。

https://ehime.soudan-chat.jp/

悩みを言語化することすら難しい段階の利用者を対話で受け止め、ストレスや不安をやわらげられるように設計しました。必要な場合には、保健所の有人相談窓口をはじめとした適切な支援へつなぐ機能も備えています。

心の健康相談をAIに任せる以上、気軽な「相談のしやすさ」と重大な事案を見逃さない「安全性」の両立が欠かせません。

本プロジェクトでは、チャット開始までの導入手順を最小化して気軽に始められるようにする一方、医療行為・診断は行わない、具体的なアドバイスは慎重に提示する、高リスク発話は専用フローで処理する、といったガードレールを開発の初期段階で明確に定義しました。

具体的には ①対話の設計、②安全網としての検知・連携の仕組み、そしてそれらを支える ③行政ガイドライン準拠の基盤 という3つの観点から開発を進めました。

開発の初期段階から典型的なユーザーのテストケースを用いてプロジェクトメンバー間で評価を行い、回答のトーンや提案の精度に対するフィードバックを重ねてロジックを改善しながら、最終的な本番環境への適用を目指しました。

① 「自由生成」に任せない、構造化された傾聴対話

応答の品質を担保するため、対人援助の理論を構造化したプロンプトテンプレートで応答を制御しています。

  1. 受容

    利用者の発話を否定・評価せず受け止める(「そうなんですね」「お辛かったですね」)

  2. 反映

    感情・状況を整理して言い返し、「理解されている」という体験を提供する

  3. 整理

    「〇〇のことで、特に△△が気になっているのですね」と論点を整理する

  4. 問いかけ

    利用者が自分のペースで掘り下げられるよう、押し付けない問いを返す

法研様×Hakkyで過去に開発した女性向け健康相談「やさしい相談AI」で培った、デリケートな悩みに寄り添う傾聴設計と医療への橋渡しのノウハウを、働く世代の心の健康相談向けに最適化しました。

② 高リスク発話の二重検知と、同意ベースの情報連携

安全設計の要が、高リスク発話への対応です。キーワード辞書による即時判定と、LLMによる文脈評価を組み合わせた二重の検知の仕組みとし、表現の揺らぎや文脈に隠れたシグナルを拾えるようにしています。

個人情報の取り扱いは、「入口での利用同意」と「情報連携時の同意」の二段設計としました。チャット開始前に利用規約への明示的な同意を得るとともに、意図せず個人情報を記載しないよう注意喚起を表示。

さらに、有人対応窓口への情報連携時には、提供する情報・提供先・利用目的を明示したうえで、本人が「同意する/同意しない」を選択する形にしています。

こうした二段階の同意設計により、利用者が意図しない形で個人情報が伝わることを防いでいます。

③ 行政の生成AIガイドラインに準拠したクラウド基盤

クラウド基盤はGoogle Cloud上にサーバーレスアーキテクチャで構築し、開設期間中は同時接続数の制限なく、アクセス増にも自動でスケールする設計にしています。

相談内容は生成AIの学習に利用しない設定とし、通信・保存の両面で暗号化を実施。データの保管場所も国内リージョンに限定するなど、行政事業に求められる準拠性を確保しました。相談自体も匿名で開始できる設計となっています。

Hakkyとの取り組みを振り返って (法研様より)

メンタルヘルス領域でAIを活用するにあたり、私たちが最も重視したのは、「利用者の気持ちに寄り添い、安心して話せる場をつくること」でした。

利用者の言葉を受け止め、否定せずに耳を傾ける「傾聴」をAIでどう実現するかは、前例も少なく難しいテーマでした。

株式会社Hakky様には、構想段階から私たちの想いや現場の課題を丁寧に聞いていただき、技術的な視点から実現可能な形へと落とし込んでいただきました。

特に、応答のトーンや言葉選び、利用者の状況に応じた対応、安全面に配慮したリスク対応の設計、 UI/UXについては、細部まで何度も検討と検証を重ね、目指していた「AIで安心して話せる場」を形にすることができました。

開発期間中は、疑問や懸念が生じた際にも気軽に相談できる環境を整えていただき、こちらの要望にも一つひとつ丁寧に向き合っていただきました。

同じ目線でプロジェクトを進めるパートナーとして伴走していただいたと感じています。

このたびの開発にご尽力いただいた株式会社Hakky様に心より感謝申し上げます。

今後の展望/ネクストステップ

今回のプロジェクトは、単発のお取り組みに留まらない可能性を再確認できる結果となりました。

  • 約1ヶ月間の開設は試験的な取り組みの位置付けだが、ここで得られた相談対応状況(相談件数・相談者実数・属性等)は、愛媛県が働く世代の心の健康支援施策を検討するうえでの材料となることが期待される

  • 「傾聴対話・高リスク検知・行政ガイドライン準拠基盤」を組み合わせた今回の型は、子育て相談や福祉相談など、他の自治体業務を始めとしたデリケートな相談AIへの応用が見込まれる


編集後記

「死にたい」などのような言葉を受け止める可能性のあるAIには、便利さ以前に、安全に対する徹底した設計が求められます。

本プロジェクトは、傾聴の理論を構造化したプロンプト設計、二重のリスク検知、同意にもとづく人の支援への橋渡し、そして行政ガイドライン準拠の基盤という4つの要素を積み上げることで、「相談しやすさ」と「安全性」を両立する行政のAI相談窓口を形にしました。

Hakkyは、要件定義から開発、運用改善までをAI駆動開発で短いサイクルで回し、期限の動かせない行政事業においても確実なデリバリーを実現します。

自治体・行政機関でのAI相談窓口の導入や、センシティブな領域でのAI活用を検討されている皆さまは、ぜひお気軽にお問い合わせください。

機械学習プロダクト開発支援


株式会社法研様ご紹介

株式会社法研は、医療・健康・社会保障の専門情報を基盤に、「人々の健康と安心を支える」総合情報サービス企業です。

医療・介護・年金などの制度をわかりやすく伝える書籍・雑誌を発行しつつ、企業や健康保険組合向けには健康相談、メンタルヘルス支援、ストレスチェック、特定保健指導など多面的なヘルスケアサービスを提供しています。

情報提供から実践支援まで一貫したサービスにより、利用者の健康増進と質の高い生活づくりをサポートし続けています。

https://www.sociohealth.co.jp/

株式会社法研

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